葬儀の費用を払おうとしたら、口座からお金が出せなくなっていた——という相談は少なくありません。ここでは、いつ凍結されるのか何が止まるのか、そして遺産分割の前でも引き出せる制度について整理します。

口座はいつ凍結されるのか

役所に死亡届を出しても、銀行には自動で伝わりません。市区町村と金融機関のあいだに、死亡情報を共有する仕組みはないためです。

実際に凍結されるのは、銀行が亡くなったことを知った時点です。多くは次のいずれかです。

  • 遺族が銀行に連絡した
  • 銀行の担当者が新聞のお悔やみ欄などで把握した
  • 相続の相談に窓口を訪れた

つまり「連絡しなければしばらく使える」状態が起こり得ます。ただし、この状態で引き出すのは慎重に考えてください。相続人どうしの争いの原因になりやすく、また使い方によっては「相続財産の処分」とみなされ、あとで相続放棄ができなくなるおそれがあります。

凍結されると何が止まるか

入出金だけではありません。

止まるもの起こること
引き出し・振込窓口・ATM とも不可
公共料金などの自動引き落とし未払いが発生する(電気・ガス・水道・通信・保険料など)
入金年金の振込なども止まる
貸金庫相続人全員の同意がないと開けられないことがある

実務でいちばん困るのが自動引き落としの停止です。放置すると、実家の電気が止まる、保険が失効する、といったことが起こります。引き落とし先の変更や解約は、凍結より先に手を打っておくと負担が減ります。

遺産分割の前でも引き出せる:仮払い制度

2019年の民法改正で、遺産分割が終わる前でも、相続人が単独で預貯金の一部を引き出せる制度ができました(民法第909条の2)。葬儀費用や当面の生活費のための制度です。

上限額の考え方

上限は、次の2つを計算して低いほうです。

  1. 1つの金融機関につき 150万円
  2. その口座の相続開始時の残高 × 1/3 × 請求する人の法定相続分

150万円という額は、法務省の説明として「約1年分の生計費または平均的な葬式費用を賄うことができると考えられる金額」が根拠とされています。

②は口座ごとに計算します。同じ銀行に複数の口座がある場合は、それぞれ計算した合計に対して、①の150万円という枠がかかります。銀行が違えば、それぞれ150万円まで別枠です。

計算例

亡くなった方の残高が900万円、相続人が配偶者と子1人(法定相続分は各2分の1)の場合、子が単独で引き出せる額は次のようになります。

900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円

②が150万円ちょうどなので、上限は150万円です。もし残高が600万円なら「600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円」となり、①の150万円より低いため100万円が上限になります。

口座ごとに数字が変わるので、仮払い上限額の計算ツールに残高と法定相続分を入れると、その口座の上限額が出ます。

手続きに必要なもの

金融機関ごとに異なりますが、おおむね次のものを求められます。

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)
  • 相続人全員の戸籍
  • 請求する人の印鑑証明書
  • 金融機関所定の請求書

「相続人全員の戸籍」が要るのは、法定相続分を確定させるためです。ここが一番手間のかかるところなので、法務局で法定相続情報一覧図を作っておくと、戸籍の束の代わりに1枚で足りる金融機関が多く、負担が減ります。

相続放棄を考えている場合の注意

仮払いで引き出したお金を私的に使ってしまうと、「相続財産の処分」とみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。

葬儀費用など、相続財産のための支出に充てた場合まで直ちに単純承認になるとは限りませんが、線引きは事案によります。借金があるかもしれない、相続放棄を検討している——という段階では、引き出す前に弁護士・司法書士にご相談ください。

相続放棄そのものの期限と手続きは、相続放棄の記事で解説しています。

凍結を解除するには

最終的な解除(相続手続き)には、遺産分割の内容に応じた書類が必要です。

  • 遺言書がある場合:遺言書(自筆証書は検認済みのもの)
  • 遺産分割協議をした場合:遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
  • 法定相続分どおりに分ける場合:相続人全員の署名押印がある金融機関所定の書類

銀行に支払う手数料は一般にかかりません。書類が揃ってから使えるようになるまで、10日前後を見込んでおくと安心です。

急いで全部を進める必要はありません。まずは引き落としの付け替えと、当面必要なお金の目処の2つだけ手当てすれば、残りは順番に進められます。